新潟に行ったときに、3月のライオンやハチミツとクローバーの作者である羽海野チカ先生の展示が開催されていた。
渋谷で行われてたときに僕は一度行ったことがあったのだけど、もう一度じっくり見たいと思っていた。なので、たまたま新潟でやっていたことに感動してすぐに飛び込んだ。
やっぱりイラストがキレイで、15年以上も前に描かれたハチミツとクローバーの表紙や扉絵を今見てもまったく古臭さを感じなかった。あの可愛らしいタッチの世界観が本当に好きだ。
絵の具は水彩です。透明と不透明両方混ざってます。ホルベインとクサカベがメインです。パレットはこのまま保存で、色がなくなったらつぎ足します。使う前にはスポイトで、ちょぴちょぴっと水を垂らして湿らせるところから始めます
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2012年2月25日
表紙や扉絵のカラーは水彩の絵の具を使って描かれているようで、展示でもそのパレットなどが公開されていた。
たしかに3月のライオンの表紙のタッチは手書きの温かさがあるけど、今でもデジタルじゃないことに驚いた。
それお作中に登場するキャラがかぶる毛糸の帽子などは、描く前に実際に作って確かめるということもしているらしい。どこにそんな時間があるんですか先生…!!
展示はどれもおもしろかったのだけれど、それらの中で一番見入ってしまったのは羽海野チカ先生のネームの作り方を公開しているコーナーだ。
アイディア落書きの一部も公開しており、ネームの作り方を一から丁寧に解説していたのだ。
その方法が独自でおもしろかったのでまとめてみようと思った。
※ 写真撮影不可で思い出しながらこの記事書いているので、間違っていたら申し訳ありません
羽海野チカの8分割法でのネーム作り
まずは8ページ分に分ける
一枚の紙を8分割して、8ページ分の漫画が描けるスペースを作る。
わかりやすく数字をいれるとこんな感じ。ようは8ページの4つの見開きを最初に作っていく。
コマ割りして入れたいセリフや絵を描いていく
コマを割って大まかなストーリーを描いていく。(他のページもある程度埋まっていると思ってください)
この8分割の方法は、漫画のネームの描き方としては一般的なようで、やっている人も多いようだ。
以下からのブラッシュアップ方法が他の人とまったく違うようだ。
描き終わったらネームをコピーして必要なコマを切る
絵やセリフを入れたあとにそのネームをコピーをする。
ちなみにすべてのコマを書いているわけではなく、埋められるコマから埋めていっているような感じだった。描いていないコマもあった。
そして、コピーしたネームとは別に新しく8分割にした紙を用意する。
コピーしたネームから気に入ったコマだけを切り、新しい紙に貼っていく。そしてそこから埋まっていないコマを描いていく。気に入ったコマだけを切って残して、次々にネームを進めていくのだ。
これをひたすら繰り返すのが羽海野チカ先生のやり方だ。短いときでもこれらを4~5回はやるそうで、多いときはもっと書いては切って貼ってを繰り返しているそう。
この作業を展示では「どんどんすべすべにしていく」と表現していた。尖っている原石を磨いて、丸くしていくようなイメージだろうか?
これは羽海野チカ先生の独自のやり方らしく、他の漫画家の人はおそらくやっていない方法とのことだ。
僕はエンジニアとしてプログラムを書いたり、ライターとして文章を書いたりしているが、『ものを作る』という意味では、羽海野チカ先生の漫画作りは勉強になるものが多々あると感じた。
作品というのは作っているときや、作った直後というのは客観的には見ることができない。完成させたときは興奮状態にあり、冷静に見ることができないことが多いと思う。
『文章を書いたら次の日に見直した方が良い』というのは有名な話だ。
村上春樹はメールも「一晩寝かした方が良い」ということを言っていたりもする。(ちょっと今回の趣旨とは意味が違うかもしれないが)
そもそもネームとは?
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僕は漫画というのを描いたことがないので、いくつか本を読んだりネットで調べたりしてネームの描き方の基礎を勉強してみた。
最近ツイッターばっかりやってたので仕事してますよアピール
— 山縣 清継@メルヘン・メドヘン漫画版 第1巻発売中! (@yamagata0725) 2018年1月29日
今やってるのは下書き、中村先生のネームを軽く肉付けしながら写すだけの簡単なお仕事です
ツイッターは寝る前とかお風呂に入ってる時とか休憩中にしてるんです(弁明)
ちゃんと〆切間に合わせますのでお許しください(懇願) pic.twitter.com/4VlqNRTSQM
ネームとは、コマやセリフやキャラクターの配置などを大まかに描いたもの。ネームは必ず漫画家が描くというものでもなく、原作者がいればその人がネームを描く場合もある。
あくまでも一例であるが、漫画を作るおおまかな工程は以下のようになっている。
- ストーリーを書く。箇条書きでも、文章でも良いから設定をつくる。
- 棒人間でも良いから簡単なネームを描く
- ネームを清書して描く
- ネームを基にして下書きをする
- 下書きにペン入れする
ネームを描くときには、漫画に置ける重要なことも決めていかなければならない。これらは漫画のおもしろさを左右する。
- ストーリー
- コマ割り
- キャラクターなどの構図
- セリフ
つまり下書き→清書の工程ではネームを基に描いていくので、ネームとは漫画の設計図のようなものとも言えるのだ。
おざなりになりがちな『見直し』という工程に重点を置く
ネットの書き込みを見ると「ネーム通りに描かないで、ペン入れのときに物語を変えることが多々ある」という意見も目にした。
羽海野チカ先生の方法だと、ネームを描きあげても『切って貼り直す時間』があるということを前提として作業することになる。つまり見直すという作業がおざなりになっていないのだ。
『見直す』という作業はある種で自分の作品を『壊す』作業でもある。1つ手を加えたら、作業を一からやり直す可能性すらあるからだ。つまり苦しみたくないので、見直しという作業を軽く見ている人も多いのかもしれない。
そこで確実に『壊す』という作業をネームの作成自体に組み込むことによって、客観視を自動的に取り入れているのである。
また、人間は触覚によって意思決定を左右されるという実験結果がある。生まれたときは視覚や聴覚が弱いので、触覚から情報をキャッチして物事を判断するようになっている。触覚は人間が一番培ってきた感覚なのだ。
自らの手でネームを壊すことによって、より見直すという作業自体の意思決定を強めているのかもしれない。
やり方の最適解は自分自身が見つけ出す
羽海野チカ先生の8分割での描き方はあくまで独自のもので、他の人とはまったく異なるやり方らしい。おそらく漫画を描いて描いて、模索して、自然と身についたやり方なのだろう。
当たり前の事なのですが、みんな頭の中の形が(考え方の形?)違うんだな、と。あと、自分が自分の作品において、大切にしている部分にしっかり芯を通すための、ネーム手順にちゃんとなっている、と思いました(´ω`) 絶対これがいい!っていう方法は、漫画に個性が(作家に個性が)ある以上
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2012年2月29日
見本となる手順というのは、無く、無いのが当たり前だよな。と。 服とかお化粧だって、人が違えば、絶対似合うもの、っていうのも違いますものね。 だから昨日皆が見つけたかったのはきっと、この作品のこの部分に強くラインを出すには、このネーム手順が必要なんだ、という、考え方の流れを
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2012年2月29日
掬い上げて眺める、というものだったんだろうなと。 ネームの手順というは、そのひとの、物語を創り上げる手順(脳の中の考え方の流れを当たりまですが)直接目で見ることができるものなので、本当に、出来上がった作品と、ネームの手順を照らし合わせてみると、ちゃんと、その先生の
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2012年2月29日
漫画の魅力を、まっすぐ浮き上がらせる事が(ラインをはっきりさせる?)できるネーム手順になっていて、目とか胸の中で花火がぽんぽんあがるような気持ちでおりました。本当に楽しかった。謎も?とける気持ちでした。みんな自分にあう手順は習うものではなく、自分で一生懸命作らねばならないのだなと
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2012年2月29日
今の時代なにかをはじめるときに「〇〇 簡単なやり方」とすればほぼ確実にネットで見つけることができる。例えば「絵 早くうまくなる方法」などで調べればすぐに検索結果としていくつもサイトが出てくる。
そういった時間もときには必要かもしれないが、一番は自分自身で必死に走り続けてやり方を見つけていくことなのだろう。
羽海野チカ先生が言っているように、自分の作品に沿ったやり方をしていく必要があるのだ。
世の中で万人に合う最適解なんて確実になくて、自分に合っているスタイルを見つけた人だけが、自分だけのものを作れるようになるのだと羽海野チカ先生の言葉から学んだ。
すごいことに気付きました。左手にインクの瓶を持って至近距離でインクをつけペンを入れるとめっちゃ速いです。インク瓶を原稿用紙の外に置いてあると、視線の移動が生まれるために集中が削がれていたようです。このポジションで構えるとどんどん進みます。(アナログですが) pic.twitter.com/Hyb3TsEFiF
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2018年1月18日
(羽海野チカ先生は今でも最適な描き方を模索している)
だから羽海野チカ先生のやり方が一番良いということはもちろんない。やり方なんて千差万別で、『モノを作る』というのは自分自身のスタイルの確立であり、自分自身の最適解を探す作業なのかもしれない。
自分の作業を見つめ直す
今ネームをやっているのだけど、物語を考えている間はものすごく激しく考えごとをしているので、脳が半端ないエネルギーで稼働しているばっかりに、この肉まんのことが頭の中で高速でリフレインしており、高速で凹みが加速していく。参った。多分これ漫画を描き続ける限り一生毎回思い出す自信がある
— 羽海野・アニメはNHKで土曜夜! (@CHICAUMINO) 2017年1月30日
僕はwebで文章を書くということにおいて、楽をしすぎているなと反省した。記事を書いて公開して「やったー!いっぱいTwitterで拡散されたぞ!わーい!!」ではダメなのだ。
文章が下手なのは自分でも理解しているが、一応それでもお金をもらって書いている。つまりある程度のクオリティは担保することが期待されているのだ。仕事としてやるからには自分の提出物には、責任を持たなくてはならない。
自分なりに知識を蓄え文章を書き続け、自分のスタイルを見つけていかないといけない。
(※ 一応書いておくが、プロ漫画家と同列に自分を考えているわけなんてないし、自分の記事が作品なんておこがましいこと考えていないのであしからず)
職業に関係なく、羽海野チカ先生のように自分の作業に対して、妥協せずに追求していく姿勢がプロと呼ばれる人なのだ。なんの仕事だろうと、そういった姿勢であるべきだ。
羽海野チカ先生の言葉を借りるなら「どんどんすべすべにしていく」という言葉を念頭において、自分の仕事の制作物に対して『見直し』や『ブラッシュアップ』といった工程を大切にする必要があると痛感した。
Twitterもやっています
トーストにチーズとマヨネーズとゆかり(ゴマ入り)をかけると悪魔的美味さ…!
— megaya (@megaya0403) 2018年1月29日
トーストのサクサク…チーズの柔らかさ…ゴマの香り…ゆかりのザクザク感と風味……犯罪的だ……! pic.twitter.com/tpktjn2Ddz
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