僕はひつまぶしにはとある因縁がある。
中学生のときに家族旅行で名古屋に行く予定があったのだが、部活の試合があった僕は行かないと断った。当然日付をずらしてくれると僕は思っていたが、なんとそのまま僕を置いて他の全員で出発してしまったのだ。
中学生の僕は料理など出来るはずもなく、カップラーメンと冷たいコンビニ弁当で3日間をしのいだ。
そして帰ってきた兄弟からお土産話と自慢をしこたまされた挙句に、ひつまぶしが美味かったことを延々と説明された。
「ひつまぶし美味かったよ」
「最高だった」
「あれを食べてないやつは人間じゃない」
「ひつまぶしを食べて初めて人になる」
「つまりお前は半妖だ」
という暴力的な言葉を浴びせられた。あれほどベッドを濡らした夜もない。
その積年の恨みを晴らすために、土日を利用して名古屋でも有名な名店であるしら河というお店に行った。12時前後にも関わらず、すでに人がかなりの並んでいてその人気ぶりがうかがえる。
待ち時間が長いかもしれないが、僕が家族に受けたあの仕打ちは10年以上前のものだ。ここで1年くらい待つことになってもなんてことはない…!
外で並んでいると、近くにいた常連っぽいおばちゃんが「中に入っても少し座って待つのよ。油断しちゃだめよ」 と話していた。歴戦の戦士かよ。
30分ほど外で待ってから中に入り、おばちゃんが言っていたようにさらに10分後…ようやく店内へ。いよいよ長年の恨みを晴らすとき!!
(引用:http://hitsumabushi.jp/shirakawa/shirakawa_menu)
メニューはひつまぶしだけでなく、串かつやサラダなどもある。迷ったが、卵焼きや肝などが一緒になったお昼だけのセットメニューを注文した。
まずはかぼちゃの煮付けが運ばれてきた。甘いかぼちゃに優しい和風だし、そしてひき肉の甘みが調和している。舌にのった瞬間のかぼちゃの甘味と、噛んだときのひき肉の旨味が最高。
そしてさらにう巻きが運ばれてきた。人類は卵から生まれた生物を調理し、また卵に閉じ込めるという永遠の輪廻を手に入れた。
和風だしの卵やきがうなぎの味をより引き出す。どちらも主役であるがどちらも邪魔しない。翼くんと岬くんのゴールデンタッグやで!!
確かに美味い…
しかしまだ僕の野望は叶っていない。ひつまぶしを食べないといつまで経っても汎用のままだ。早く…早く来てくれ…!!
神々しい…!!!!
これが…これが夢にまでひつまぶし!!!
開けた瞬間の湯気と香りがたまらない。10年以上前の出来事を思い返して涙がでそうになった。これが幻の食べ物ひつまぶしか…!
しかし、ここで思わぬ弊害があった。まったく食べ方がわからない…ひつまぶしの作法がわからない…まさかここに来て10年以上前にひつまぶしを食べていなかったことが響いてくるとは。
僕がオロオロとしていると、店員のおばちゃんがそれを察しのたのか「食べ方わかりますか?」と聞いてくれた。ありがてぇ…
1. 器に入ったごはんとうなぎを軽く混ぜる
2. そのままよそって食べる
3. ノリやネギなどの薬味をのせて食べる
4. 薬味をのせてお茶漬けにして食べる
※ あとはご飯がなくなるまで好きなように食べる
食べ方に順番があるのか。ひつまぶし…奥が深い…!!
10年以上待ちわびた伝説の食べもにしゃもじを入れるのは気が引けたが、ここは作法にならって5~6回混ぜてみる。真っ白なご飯にソースが絡んでいくのを見るのは気持ちがい良い。
米という白いキャンバスにソースという名の絵の具を塗りたくる。僕はピカソだ!!(食べる前により精神が若干不安定になっている)
はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
本当に最高。これ以上も以下も言葉がない。最高としか良いようがない。うなぎはふっくらとしていて柔らかい。うなぎのタレってなんでこんなにご飯に合うんだろうか。これだけでずっとご飯食べられるよ。うますぎて笑いが止まらない。
中学生時代に戻れるなら今すぐ過去の自分を殴ってでも家族旅行に行けと言いたい。部活なんて行ったってどうせベンチ温めているだけなんだからと。
薬味をのせるとさらに美味しさがあがる。なんだこれ!!
のりと青ネギが甘いタレのいいアクセントになっている。さらに山椒で少し味を変えるのも良い。和食って何でこんなすべてが美味いんだろう。
しら河ではうれしいことに薬味やうなぎのタレが使い放題なのだ。無限にご飯が食べられる永久機関がここにはあった。
最後はお茶漬けにして食べる。さっぱりとしていてこれはこれで美味い。するするといけるので本当にこれ何杯でもいける気がする。タレがお茶に混ざって、汁を飲むだけでも美味い。
店員のおばちゃん達の接客もめちゃくちゃ優しく、お茶が少なくなったら何も言ってないのに「お茶いかがですか?」とすぐに聞いてくれる。エスパー並に本当に素早かった。見聞色の覇気持ってないと雇わないのかもしれない。
僕の食欲はとどまることを知らず。結局そのあと追加でひつまぶし以外もどんどんと注文していった。
ご飯やおかずがすべてなくなっても、ひつまぶしが名残惜しすぎてお茶とタレだけをまぜて2杯飲んで終了した。意地汚いかもしれないがそれくらい美味かった。ここは天国だ。最高だ。ユートピアとはこの地だったのか。
ひつまぶし…すげぇ…
母さん…今…僕は……人間になりました…
10年前、名古屋に行かなかった僕が今ここでひつまぶしを食べている。もし過去に名古屋に僕が行っていたら、今日ここには僕はいなかっただろう。10年以上待ったことによってさらにひつまぶしの味に感動できているのかもしれない。
人生とは常に選択の連続であり、ひつまぶしを食べている僕と食べていない僕が存在している。ひつまぶしを選択しなかった僕も平行世界にはおり、一生その味を知らない人生もあるだろう。
もしかしたらひつまぶしを食べなかった僕は、大成功して大金持ちになっているかもしれない。世界的なスーパスターになっているかもしれない。
しかし僕はひつまぶしを食べた世界線を選んだ。そこに後悔など微塵もない。僕は選択したのだ。ただそれだけだ。
もしひつまぶしを食べたことがない人がいたら、慎重に選択してほしい。ひつまぶしを食べる人生か、食べない人生か。もしかしたら一生を左右することになるかもしれない。
ひつまぶしを食べたことによって死ぬこともあるかもしれない。しかし、決して振り返ったときに汚点にはならないだろう。食べてない人生を選択した場合は、死の瀬戸際できっと思い出すだろう。「ああ、なんで俺はひつまぶしを食べない人生を選択したのだろう…」と。
ひつまぶしを選んだ人生に乾杯。10年前に旅行に置いていってくれた家族に感謝。
ありがとう
父に、ありがとう
母に、さようなら
そして、全ての子供達(ひつまぶし)に、
おめでとう
Twitterやっています
都会から来た女の子がバスに乗ってたときの会話
— megaya (@megaya0403) 2017年9月30日
「あの家かなり古いね」
「人住んでるのかな?」
「あそこまで行くと文化遺産だよね」
「網戸も開かなそうだよね」
「あっちもけっこうボロボロだねー!笑」
僕(やめてくれ、、、あれは俺の親戚の家だ、、、)
その他のオススメ記事