megayaのブログ

自由に書いてます。エンジニア系のこともたまに。仕事でライターとエンジニアやっています

初めてバーに行って本を読んでいたら笑われた

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二度とバーなんて行かない。

渋くてカッコイイ大人の嗜みと言えばバーだ。友人や女性をスマートにお店に連れていき「ここ行きつけなんだよね」とさらっと囁くことができる大人になりたかった。都会とは思えない静かな行きつけのお店を見つけて、マスターと渋い会話がしてみたかったんだ。



「マスター今日はバイオレンスラビリンスを頼むよ…」


マスター
「また女性の悩みでもあるんですか?」

「へへっ、マスターはなんでもお見通しだな」

マスター

「あなたがバイオレンスラビリンスを頼むときはそうですからね」


「またひとりの女を泣かせちまったよ。俺は誰も幸せにできないのかな?」

マスター
「そんなことは絶対にないと思いますよ」


「絶対?世の中に絶対なんてあるもんか!根拠がないだろ!気休めだ!!」

マスター
「ははは、だってあなたがお店に来て話してくれるだけで私は幸せですから」



「…ちっ、マスターには敵わないぜ」

 

こんな…こんな渋い会話がしてみたい…!一回で良いからバーで女子もしびれるような会話がしたい。あと「あちらのお客様からですよ」って行って近くに座っている女の子にお酒おごってみたかった。

しかしそれももう叶わぬ夢。僕はバーというものはトラウマがある。3年前にバーに行って笑われてから二度と行きたくなくなった。
 

東京に引っ越してきたとき、「お気に入りのバーに通いたい」という欲求が尋常じゃなかった。田舎から東京に引っ越してきた僕はバーというものを桃源郷のような場所だと思っていた。

ただ地元の友人を誘って「おい!バー行こうぜ!」なんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。言ったとしても「バー…?あー!バーバー坂本のこと?」って地元にある床屋の話しされるのがオチなのは目に見えている。もしくはバーバリアン1号2号の話をされるのが相場だ。

当時働いていた会社にもバーに行くようなオシャレな人なんていなくて「サイゼリヤ最高!!」みたいな人が多かったのであてにできない。いやサイゼリヤは最高なんだけどね。今はバーに行きたい。

 

周りに誰も行きそうな人がいなかったので、いっそ一人でバーに行ってみることにした。というかその方がカッコイイ気がしてきた。もしかしたら他のお客さんとも交流があるかもしれない。むしろそんな体験がバーっぽい。
 

ただ新宿や六本木のような都心のバーに行くのは怖かった。「おいおい酒の種類もわからねーようなbabyがきたぜ?俺のバーをケツにぶち込んでやろうか!HAHAHA!」なんて言われるかもしれないからだ。都会怖い。

都内の中心部から少し離れた場所にするために、一人暮らししている最寄り駅から少し離れたお店に行ってみることにした。最寄り駅だとなんとなく気恥ずかしさあるしね。



ということで仕事帰りに意を決してお店に入ってみた。(入るときに緊張しすぎて、初めて18禁のレンタルビデオコーナーに入る中学生のように何度もお店の前をうろうろした)

地下にあるお店なので階段を下って店内に入る。入り口の扉を開けるとそこには僕が夢見た光景が広がっていた。カウンターにはマスターと女性のバーテンダーが立っている。

テーブル席にカップルが一組と、カウンターにはイケイケのちゃらそうなお兄さんと強面の中年が2人座っていた。どうやらカウンターの2人は常連らしく女性のバーテンダーと仲良く話している。

これだよ…僕が求めていたのはこの世界なんだ…
甲子園に初めて行った野球少年が如く感動して思わず叫びたくなった。しかし、ここはバーだ。大人の振る舞いをしなくては。

慣れている空気をだしつつ、カウンターの一番奥に座る。カウンターにいた怖い二人組とも離れた場所に座れたし安心だ。

ここまでは完璧だ。立派にバーデビュー出来ている。このまま注文もそつなくこなしてマスターとの甘いトークタイムへと洒落込もう。

 

お腹も軽く空いていたし、軽く腹にたまるものを注文しようと思った。しかしここから一気にバーの厳しさを知ることになった。

僕はいつもチェーン店の安い居酒屋にしか行かないので考えていなかったが、バーのメニューには写真など一切使われていなかった。当たり前だが文字面だけで何のドリンクなのか、どんな料理なのかを判断しなくてはいけない。

しかも僕は普段ビールとハイボールくらいしか飲まない。カクテルなんてほとんど飲んだことないので、飲み物のメニューを見ても何ひとつわからない。
ロゼとかメアリーとかミモザとかアレキサンダーとか見てもまったくわからない。どこの外国人だよ。これ注文したら僕の横にアレキサンダーって名前の外人が座る仕組みじゃないよね?もしかしたら助っ人外国人の可能性もあるよね。ライトで打率2割前半だけど本塁打多いタイプ。


料理も絵が書いてないからまったくわからない。お腹空いてるからなにか食べたいけど、そもそもどれがお腹が膨らむ料理なのかわからない。ピーナッツとかクラッカー食べてもしょうがないし、マリネって何だっけ?ってレベルに混乱している。

僕がメニューを見て延々と迷っていると、マスターが僕に「なにか注文されますか?」と笑顔で聞いてくれた。
これがマスターの優しさか…と一瞬思ったが逆にそれがプレッシャーになった。早く決めなくては。

本当であれば「何がおすすめですか?」と聞けば良いものを僕は当時その行為がかっこ悪いものだと思っていた。とにかくスマートに決めなくてはいけないということで頭がいっぱいだった

困った僕は目についた知っている飲み物と知っている料理を頼むことにした。

「じゃあビールとステーキをお願いします」

なぜその2つになったのか今でもわからないが、とにかく僕はその2つが目に入ったので頼んだ。脊髄がビールとステーキを反射で選んだ。

 

料理の注文を終えて、ビールが運ばれてきて口にするとようやく少し落ち着いてきた。周りをキョロキョロするとかっこ悪いと思ったので、バーカウンターの奥に並べられたお酒のラベルを見ていた。

へー色んなお酒があるんだなーと思って数分眺めていた。しばらくぼーっとしていて気づいた。
…あれ?バーって何するの?

 


手持ち無沙汰どころの話しではない。もうやることがないのだ。イメージだとお酒を注文したらマスターと話して〜ってイメージだったんだけど、そもそもマスターと話すキッカケってないの?ギャルゲーだったら「マスターに話しかける」ってコマンド出そうだけど、あれって一言目なんて話しかけてるの?よくよく考えたらコミュ力高くない?

そこからまた数分ほどお酒のラベルを眺めながるしかなかった。しかしこのままじゃダメだと、意を決してマスターに話しかけてみることにした。

「さっきビール頼んだですけどオススメのカクテルって何ですか?」
「このお店って何の料理が美味しいんですか?」
「今日は天気が良いですね」

 

頭の中で話題を選別する。なんでも良いんだ。とにかく話しかけよう。思考を巡らせた結果、オススメのカクテルを聞くことにした。これならバーの質問として自然だし、そのまま会話に移行できる可能性もある。

心臓の高鳴りと大量の手汗をかきながら、意を決して話しかけようと視線をマスターに向けた。

「マ…」

「マスター」と言いかけて僕の唇は微動だにしなくなった。
身体が動かない。あれ?「マスター」って口にするのめちゃくちゃ恥ずかしくない?

ドラマとか映画でしか見たことない存在だったら、芝居のセリフを口にするような気恥ずかしさがある。
そもそも「おいおい現代でマスターって呼ぶやついねーだろ?大阪万博の頃の話しだぜ?」とか嘲笑されたらどうしようという不安もある。

結局僕はそのあとも話しかけるとことができずに、ただただお酒のラベルを眺めることに徹した。初対面で気まずいときにペットボトルの成分表示を眺めて時間をつぶすのと同じだ。

 


しばらく待っていると予想以上にでかいステーキが運ばれてきた。なんかどんどんバーっぽさからかけ離れていく気がする。美味そうなのでテンションは上がるが。
まあとりあえずひとまず食べよう。

専門店でないので期待していなかったが思ったより柔らかい。デミグラス風のソースもいつも食べているようなにんにくのものと違って美味い。これは米が欲しくなるな。が、今日はビールだ。ステーキ、ビール、ステーキ、ビール…贅沢の大行進だなぁ。
う〜ん、これだけでかいと他のメニューも気になるなぁ。どれどれ、他のお客は何を食べているのかな…

うん、これもうただの孤独のグルメだ。一人で知らないお店入って一人で心の中で感想つぶやく最近多いグルメ漫画と一緒だ。 

肉とビールを交互に口に入れているだけで、状況は変わらずやることがない。地下なのでポケットwifiの電波も繋がりにくいし、マスターに話しかける勇気がなかったので、もう少し酔ってからにしようと思っていた。

やることがなかったので、しかたなくいつも通勤電車で読んでいる小説をカバンから取り出して読むことにした。行儀悪いと思うかもしれないが食べながら小説を読むのは僕のクセだった。今はやらなくなったが数年前はよくやっていたのだ。だからこの行為は僕の日常では普通の行為なのだ。

小説を読みながら飲食していると気持ちが落ち着く。心のやすらぎを感じながらグラスに手をつけると、ビールが空になっていることに気づいた。

次は何を頼もうかな…あっそれこそマスターにオススメのカクテルを聞けばいいのか!
小説がちょうど佳境の場面だったのでキリの良いところまで読んでからマスターに聞いてみよう。

そう思って続きを読んでいると、横から視線を感じた。初めは無視していたが長いこと視線を感じたので、そっちに目を向けるとカウンターに座っているちゃらいお兄さんが僕を見ていた。そして視線が会った瞬間に、ねっとりとした嫌な笑みを浮かべた。

 

僕がすぐに目を背けると、そのちゃらい兄さんは僕に聞こえるか聞こえないかの音量で、女性のバーテンダーにささやいた。

 

「バー来て本読んでるぜ、あいつ」 

 

もうね、このときの僕の恥ずかしさと言ったら想像を絶するものがあった。顔が熱くなり汗が滝のようにでてきて、アルコールなどすべてぬける思いだった。怒りとかは一切なかった。「バーに来て本読む人なんていないんだ」と初めて知ったからだ。バーの常識がそうなんだと思った。ただただ恥ずかしい。バーテンダーの女性にも笑われている気がして顔をあげることができない。


ただここで本を読むのを辞めたら、「おいおい読むのやめちゃったよw」と追撃されるに決まっているので動くことも出来ない。

 

そうだお酒を頼もう。ここで帰ったらさらにバカにされそうだし、まだマスターと一言も話していない。せめて一言話したら帰ろう…


そう考えていると、マスターがそのちゃらいお兄さんに近づいていった。そして小声でその男に忠告した。

「話すのが目的じゃないお客さんもいますよ。過ごしかたは自由です」

 

いやいやいや!カッコイイけども!!
だけど違う違う!!僕は話したいんだよ!!!

 

もう無理だ。完全にすべての進路はたたれた。「話さない人」というレッテルを貼られてしまった。完全にロック。カテナチオだ。これはもう崩せない。


本読んでるだけで笑われるしマスターと話す術もないし帰ろう。僕はビールとステーキを食べただけで、3000円近くの高い夜ご飯代を払った。帰り際にちゃらいお兄さんの後ろを通ったが、顔は見なかった。またあの嫌な笑い方をしていることが想像できたからだ。

 

 

家の最寄り駅に着いたときに、心にぽっかり穴が空いたような気持ちになった。魂が抜けたように意気消沈した。

よし今日は飲もう。酔って寝よう。お酒が傷を癒やしてくれる。

 

そして僕は緑と赤の看板のルネッサンス絵画が飾られたお店に足を踏み入れ、ワインを頼み、ピザを注文し、読みかけの小説を開いてホッと一息ついた。

 

サイゼリヤ最高!!!!

 

 

 

 

 

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