成人式。みなさんはどういった思い出があるでしょうか?
僕にとっては最悪の思い出しかありません。友達いなくて寂しいとかでなく、ただただ恥をかいただけの式でした。
ある意味で一生忘れられない式になりました。
僕は現在26歳で、6年前の成人式で代表のスピーチをやりました。
成人式の代表ってことは成績優秀者や、その中でも何かに秀でている人物がやるわけで、その年代を代表する人物がやるべきですよね。しかし、僕はそのときニート真っ只中でしたよ。
僕は大学を2年の初めから行かなくなりました。と言っても完全に辞めたわけではなく、大学に行くフリをしてすごしていた。学費を奨学金で払って、通うふりをしていたんですね。(現在その借金を返すのに苦しんでます)
親や友人には「大学に行っている」ということにしていたので、電車で大学近くまで移動し、漫画喫茶などで時間をつぶすエア通学をしてました。
ときには親が出勤するまで、家の押入れの中に隠れてやり過ごすこともあるほどの生粋のクズ野郎でしたよ。
そのあと色々あって、家出してママチャリ日本一周の旅にでるわけだけど。そのあたりは過去の僕の記事読んでください。
そんなガールフレンド(仮)的な状態のニート(仮)の僕が、成人式でなぜ代表のスピーチをやることになったのかというと、中学生のときに生徒会長をやっていたからです。
昔から承認欲求が人一倍強いというか、目立つのが好きだった僕はそういったことがらには、積極的に参加するようにしていた。
僕らの地元の成人式では「成人式実行委員会」というものが発足され、各中学校の4~5名ほどの卒業生が集まります。
そして、成人式の当日はその実行委員会が一部の時間を使い、簡単な催しを行い成人式を盛り上げる役割があります。
その実行委員会に、生徒会長をやっていた僕も呼ばれました。
そしてその成人式実行委員会の会議のときに「成人式での代表のスピーチを誰がやるか?」という話しになったときに、やりたそうにしている僕をみて友人が推薦してくれ、代表のスピーチをやることになりました。
さっきも言ったように「大学に行っていないことを誰にも言ってない」という状態だったので、誰も僕がスピーチをすることに反対はしませんでした。
むしろ「お前でいいんじゃないか?」ということを言われ、僕は意気揚々と準備をしたわけです。今思えば誰もやりたくなかったのかもしれないけど。
スピーチをすることになったとき、母親も喜んでいたと思う。まあ、このあと大学勝手に辞めたことがバレて枯れるまで泣かれるわけだけど。
ということで、僕は成人式を取り仕切る市役所の方々、各学校の先生方、成人式に参加する多くの友達を騙す形で代表のスピーチをやることになった。だってまさか誰もがニートが代表の言葉をやるとは思ってないからね。
僕は小学生のときから文章を書くのは嫌いじゃなかった。だから成人式の言葉もすぐに書き終えた。(漫画喫茶で)
意訳だけどこんな感じの文章だったと思う。
(本当はもっと長い)
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僕たちは今日、新たな一歩を踏み出します。この日を境に僕らは大人としての責任を背負うことになります。
20歳になったばかりの僕たちは、まだ「大人になる」ということを理解していないかもしれません。しかし、自分自身が理解していなくても、今日からは一人ひとりが自覚と責任をもって行動しなくてはならなくなります。
世間からは「大人」として評価されるからです。
成人したと言っても僕らはまだまだ未熟です。まだ自立できるほど成長できているかはわかりません。
それでも、今日この場に立てるまでに成長できたのは、両親や学校の先生方、見守ってくれている地域の方々のおかげだと思っています。
今日この場を借りて、僕らに力を貸していただいた方々に感謝したいと思います。
今日を機転にして、僕らはまた一つ成長したいと思います。成人式という一つの区切りを機会に何かを得たいと思っています。
今日この場でスピーチできることに本当に感謝します。
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内容が薄い!!
それっぽい言葉が羅列してあるだけで、中身がまったくない。あと「大人」とか「責任」とかいっぱい出て来るけど、このときの自分はニートだからね。
なんで自分で自分の傷えぐっているの?ドMなのかな?
と色々ツッコミどころ満載だけど、とにもかくにもスピーチの原稿を完成させて当日を迎えることになりました。
当日はもちろんめちゃくちゃ緊張していた。
なにせ地元の成人した男女が何百人もいる中で、1人でしゃべらないといけないからである。知らない人や、気合が入ったヤンキーがわんさかいる。怖い。
僕のスピーチは成人式の一番初めに行われる。つまり今日の会場の雰囲気は僕が作るようなものなのだ。
時間が近づくに連れて、ますます緊張してきた。
幕があがる前のステージの脇で、僕はひたすら原稿をチェックして待っていた。ニートだから時間はたっぷりあって練習は山ほどしてきたけど、一応最終確認だ。
あとは幕が上がって、ステージに立てばいよいよ始まりだ。落ち着いていこう…!
そう思って練習を続けていると、急に会場のスタッフに呼ばれた。
なんだろう?立ち位置の確認とかだろうか?
そう思ってスタッフについていくと、急にステージの中央に立たされた。
「ではこちらに立っていてください。幕があがるまで、そのままステージの中央にいてください!」
幕が上がってはいないが、いきなりステージのど真ん中でセンターマイクと立たされたのである。
いやなんで?
なにこのセンターマイク?1人漫談でもするの?
違うじゃないですか?
普通は式が始まって幕があがってから、アナウンスとかで、
「成人式代表の言葉。〇〇さんよろしくお願いします」
とかあり、脇から颯爽と歩いてきて登場すると思うじゃないですか?というか打ち合わせではそういう話しだったはずなんだけど…
なにこのサプライズ登場の演出?
幕が上がっていくタイプだから、僕の足元からどんどんと誰かわかっていく感じになるわけですよ。
「お!誰だ!?あれ誰だ!?」
って会場から期待されるに決まっているじゃないですか。それで、出てきたのが知らない男ってどんなサプライズだよ。ある意味では全員が口をあけてポカンとなるだけのサプライズだよ。
これだけならよかったものの、僕の状況をさらに追い込む出来事があった。
僕がステージ中央でそわそわとしていると、さっきのスタッフが今度は、
「聖歌隊のみなさん入りまーす!」
と言って、白い衣装を身にまとった主婦のおばさんたちを引き連れて、ステージにやってきたのである。
聖歌隊?いやいや何も聞いてないよ?
何なの聖歌隊って?
そう思っていると、僕の背後を聖歌隊の主婦のおばさん達がみっちりと埋めていた。
なにこの陣形?
もう意味がわからなかった。
とにかくスタッフ曰く「このまま幕があがるんで立っててください!」とのことだった。
もうスタッフしゃべらないでくれ!状況がさらに悪化しそうで怖いわ!!!
なんなんだよ、この状況!!
ステージの真ん中でセンターマイク1本で、主婦のおばさんたちに囲まれているって何のフォーメーションだよ。これ本当にふつうの成人式だよね?「笑ってはいけない成人式24時!」とかじゃないよね?
なにこの「僕 with 聖歌隊」。誰がこのフューチャリング望んでんだよ。
しかし、僕があたふたしているのをよそにステージの幕が上がりはじめた。会場では式の始まりを察したのか、シンと静まり返っていた。
そして徐々に幕が上がりはじめた…
今日はスピーチの練習もバッチリして準備してきているし、昔から人前に立つことが多かったのでそれなりにやれる自信はあった。
しかし、その自信は粉々に崩れようとしていた。この意味のわからない混沌としたステージの幕が、一生上がり切らないことを祈った。
幕が腰くらいまで上がってきたところで、会場がざわつきだした。「ステージに人がたくさんいる?」と誰もが気づいたようだ。
そして、幕が上がりきったときには、会場から笑いが溢れていた。
「なんで後ろにおばさんいるんだよ!」
「あいつ何で1人で立ってるんだよw」
「幕が上がってなんでいきなりいっぱいいるの?」
「なんのフォーメーションだよ!!」
「そもそもあいつ誰だよww」
そんな声が聞こえてくるような気がした。明らかにバカにされた笑いが溢れていた。しかも大爆笑ではない。
「なにあれ?クスクス」と学校でバレないように相手をバカにする感じの笑いだ。穴があったら入りたいというか、穴に入った直後にコンクリート流して固めてほしい。死ぬほど恥ずかしい。
僕は一気に頭が真っ白になった。必死に暗記してきた原稿の内容も一気に飛んだ。
「大人になったね!」「さすが20歳だね!すごいね!」と言われるはずだった僕のスピーチは見事に地獄へと変わった。
これがニートなのにスピーチをやろうとした報いか…
しかしそんな僕の気持ちとは裏腹に、さらに僕に追い打ちをかける出来事があった。後ろにいる聖歌隊の主婦の方々が、僕に憐れみの情をかけてきたのである。
「なんで笑うのかしら?」
「おかしいわよね」
「大丈夫よ!頑張って!」
と声をかけてくれるのである。
ありがたい…ありがたいけど違うんだよ!!言いたくないけど、お前らのせいだよ!!!!
なにこの正面からの嘲笑と、背後から哀れみのサンドイッチ。心がもうサンドバック状態ですよ。
そんなボロボロの精神状態でやったスピーチだったので、ひどいものだった。言葉はおぼつかないし、スピーチへの自信がなくなってしまい声も小さくなってしまった。
終わった後に友人に「何言っているか全然聞こえなかった」と言われる始末。最悪だ。
そして悲劇はこれだけでは終わらなかった。
というか僕的にこっちが成人式であった一番最悪の出来事だ。
with 聖歌隊のスピーチを終えたあとにも、まだやることが残っている。今度はとある催しの司会をやらないといけない。
成人式実行委員では、各コーナーの司会をそれぞれやる役割があって、僕もその一つを担当していた。
僕はスピーチをでの失敗を取り返すために、司会にかなり意気込んでいた。ここで挽回するしか無いんだ!!
「やっぱりお前っておもしれーな!」
とみんなから賞賛が得られるチャンスはここだけだ!
僕なら失敗をプラスに出来るはずだ。そう決意し、司会の一言目に「これは絶対にウケる!!」という言葉を思いついたので実行することにした。
司会は2人で行うのだが、もうひとりの司会の友人に「一言目は俺に任せてくれないか?」と自信満々に告げた。
めっちゃカッコつけているけど、これが地獄への片道キップになるわけだ。
そして式は進み、僕が司会をする順番が周ってきた。僕は息を大きく吸い込んで、一言で会場の空気を変えてやるぞ!!と気合を入れた。
そして、その一言を発した。
「さっき俺が登場したとき笑いすぎだろ!!(笑)」
渾身の一言である。
さっきのスピーチでの失態を活かした逆転の自虐。言った時は「どうだ!爆笑だろ!?」と自信満々だった。
しかし、どうだろうか?
会場はウミガメの産卵を見守るかのように、全員が息を殺して静まり返っていた。何百人といる会場で誰一人微動だにしなかった。
エロビデオでよくある「時が止まる」シリーズかと思うくらい誰も動かなかった。
数秒して1人のヤンキーが静寂を破り「あはははは、おもしろーい」とわざと棒読みで叫んだけだ。
しかし、その言葉もまったくウケることはなく、ただただ会場の宙を舞うだけだった。
知らないやつがスピーチして、「さっき俺がでてきたとき笑いすぎだろ!」と言っても意味がわからないに決まっている。
おそらく誰も僕のことを「さっきスピーチしたやつ」とは認識していないのだから。ここは学校の教室ではないのだから。
もう本当に何も考えられなくなった。そのあとの司会をどんな風に乗り越えたのか覚えていない。
多分もう一人の友人が試行錯誤して、なんとか乗り切ってくれてたのだろう。一番つらかったのはおそらくこの友人だったと思う。勝手に地雷地帯に僕が挑んでいって、あまつさえ地雷を素手で持ち帰ってくるかの暴挙である。
本当に申し訳ないことをした。
成人式が終わった後、誰もこのスベった件には触れなかった。触れたところで、おもしろくもないので逆にヤケドしかねないからである。
26歳になった現在でも、飲み会でこのことについては誰も会話に出さない。
というか誰の記憶にも残っていないのである。それくらいみんなにとってはどうでもいいし、おもしろくもなんともない出来事だったのだろう。
心にも残らないし、ただただ僕が傷ついただけである。まあ、それもこれもすべて自分自信のせいなのだが。
そんな感じで僕の最悪だった成人式は終わった。
ニートだし、笑われるし、めちゃくちゃにスベるし、そのあと話題にもならないしでとにかく嫌な思い出だ。
この成人式のことを思い出したのには訳があった。年末年始に実家に帰ったときに父親と会話していて成人式のときの話になり、父がこういったのである。
「あのときの司会のときのセリフってアドリブだったのか?」
6年越しに急にイジってきたのだ。
おい、クソジジイ!!それ以上言うとまた心に傷を負ってニートになるぞ!!!
というか今更イジってきてんじゃねーよ!!!!!!!
今更いじんなよ。
傷ついたから、聖歌隊のおばちゃん達になぐさめてもらいに行こう。